今週のSaaS業界ニュースで見えた「構造の転換点」
2025年8月第1週、日本SaaS業界に関する注目すべき話題がいくつか浮上しました。その中で特に象徴的だったのが、「SaaS is Dead（SaaSは終わった）」という論調の再燃です。
このフレーズは単なる炎上ワードではなく、「従来のSaaSモデルでは成長できない時代が来た」という本質的なメッセージを含んでいます。米国でも同様の声が高まり、日本国内でも市場構造の変化、ARR二極化、AIシフトが明確になりつつあります。
本記事では、今週明らかになったSaaS業界の最新ニュースをもとに、
- 日本SaaS市場の構造変化
- SaaS企業の勝ち残り条件
- AI・バーティカルSaaSの台頭
を中心に、今後の業界動向を読み解きます。
SaaS業界に再び注目：「SaaS is Dead？」という警鐘
米国の経済メディアBusiness Insiderでは、AlixPartnersの調査結果を引用し、「SaaS企業の40％以上が利益構造に苦しみ、成長が鈍化している」と報じました。
出典：https://www.businessinsider.com/software-companies-squeezed-by-ai-alixpartners-2025-4
この報道は日本国内にも波及し、各種メディアやSNSで「SaaS is Dead？」というフレーズが再注目されています。
実際、日本市場においても以下のような現象が起きています：
- ARR（年間経常収益）で数百億を超える企業が一部に集中
- 営業利益率が改善しない赤字SaaSの淘汰
- AI連携・エージェント型SaaSへの転換圧力
ARRで見る日本のSaaS企業二極化【2025年最新データ】
今週、ラクスやマネーフォワードなどの決算資料が公開され、主要SaaS企業のARR（年間経常収益）が明らかになりました。
| 企業名 | ARR（2025年推定） | 出典 |
|---|---|---|
| ラクス | 約430億円 | https://pdf.irpocket.com/C3923/T1zv/okBo/vWtn.pdf |
| マネーフォワード | 約390億円 | https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS71106/… |
| SmartHR | 約280億円 | https://signal.diamond.jp/articles/-/2410 |
| freee | 約270億円 | https://corp.freee.co.jp/news/20240123-ai-accounting.html |
このように、ARRで数百億円を達成している企業は一握りに過ぎず、その他のSaaS企業はARR10億〜50億円未満が多数。構造的に「上場維持が困難なSaaS企業」が増えているという指摘も出ています。
従来型SaaSモデルの限界：今週の注目ポイント
1. 利益が出ない「拡大モデル」の限界
fidxの分析記事によれば、日本のSaaS企業の多くが「ARRは増えているが営業利益が出ていない」状況に直面しています。LTV/CACが悪化し、先行投資型モデルの限界が露呈している形です。
出典：https://www.fidx.co.jp/saas-is-dead%EF%BC%9F2025%E5%B9%B4…
2. 席課金→従量課金へ：プライシング構造の再構築
OpenView社の2024年レポートでは、SaaS企業の42％がUsage-Based Pricing（従量課金）を導入済み。顧客満足度との連動やスケーラビリティの観点で注目が集まっています。
出典：https://openviewpartners.com/blog/usage-based-pricing-benchmark/
3. エンタープライズの獲得ができるかが分水嶺
SMB市場中心の戦略ではARR100億円以上は難しく、エンタープライズ契約を獲得できるかどうかが今後の成長を左右します。
勝ち組SaaSの共通点：SmartHR・freeeの事例から学ぶ
SmartHRの進化
- 人事労務の中心を担うプロダクト
- AIチャットによる労務相談機能を実装
- 中小〜大企業までカバーする設計思想
出典：https://signal.diamond.jp/articles/-/2104
freeeの取り組み
- AIによる仕訳自動提案
- SMB向けに「業務時間短縮」と「効率化」を同時に実現
- API・他社SaaSとの連携強化
出典：https://corp.freee.co.jp/news/20240123-ai-accounting.html
今週のトレンド：AIネイティブ・特化型SaaSの台頭
1. バーティカルSaaSが支持を拡大
| 業界 | 企業・サービス名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 製造 | キャディ | 図面から自動見積（出典：https://forbesjapan.com/articles/detail/67561） |
| 建設 | アンドパッド | 現場施工DX支援（出典：https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/010600087/） |
| 小売 | スマレジ | POS＋経営管理SaaS |
バーティカルSaaSは業務そのものに深く入り込むため、解約率が低く、ARPUが高い傾向があります。
2. エージェント型AIがSaaSの構造を変える
Freshworksでは、AIプロダクトのARRが2,000万ドル（約28億円）を突破し、SaaS製品の中核にAIが組み込まれています。
出典：https://economictimes.indiatimes.com/tech/artificial-intelligence/freshworks-bets-on-agentic-ai-to-drive-enterprise-growth-in-2025/articleshow/121344859.cms
日本国内でも、freee・SmartHR・SansanなどがAIを積極導入しはじめています。
SaaS転職市場の示唆：選ぶべき企業の条件とは？
今週のニュースを受けて、SaaS企業への転職を考える人は以下のポイントを押さえるとよいでしょう。
- ARRが右肩上がり（過去2〜3年連続で成長）
- 利益構造が健全（黒字転換 or 利益率上昇）
- AI・API・Usage課金モデルへの対応が進んでいる
- バーティカルSaaS or 業務定着度の高いプロダクトを持つ
参考：https://h-bid.jp/saas-company-ranking/
また、将来的にSaaSで起業を考えている方にとっても「特化領域×AI」という構造が今後のスタンダードになることは間違いありません。
今週のまとめ：SaaSは終わっていない。生き残りの再定義が進んでいる
「SaaS is Dead？」というフレーズが飛び交う中、今週明らかになったことは以下の3点です。
- SaaSは終わっていない。ただし旧モデルは機能不全になりつつある
- 日本市場でもARR格差が顕在化し、上場維持に苦しむ企業が増加
- 勝ち残るのは、AI・特化型・Usage課金など“構造適応”できる企業
今後のSaaS市場を読み解くには、表面的な売上や資金調達ではなく、「事業モデルの進化性」に注目することが重要です。
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